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医学的よもやま話

  • 2012年3月15日 18:57

 固いタイトルからですみません
医学的?の中で気に入ったことや、思いついたことをここでは伝えさせていただきます。

 今日は、月に数回送られてくる医学雑誌より
気に入った記事紹介します。

フォーカスを変える大事さですかね?
僕らの日常の診察にも役立ちそうで、皆さんの日常生活にも役立ちそうなので
良ければ、読んでみてください。
関東の大学病院の教授が書かれたものを抜粋させていただきます。

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"トラウマは聴けばかえって悪化する"


 メンタル系の若者たちと接するときに,扱いに困るのが,例の「トラウマ」というやつです。いったい「トラウマ」とはなんのことなのでしょうか。

 彼らがこの言葉を持ち出したとき,わたしども医師は重大な心理学的事実を突き付けられたようで,一瞬緊張します。この緊張は,幼児体験をめぐる精神分析理論や,心的外傷後ストレス障害のトラウマ学説に精通していないという負い目があると,とりわけ強く感じられます。「試験のヤマだということを知っていて,時間がなくてできなかったところが,やはり出題された!」,そんな衝撃です。

 若者たちは,患者として現れたときは,しきりに「過去のトラウマ」に言及したがります。もちろん,最初に語るのは心身の症状ですが,「この先生は話を聴いてくれる」と思うと,初対面の医師に対しても,いきなり複雑な生い立ちを語り始めることがあります。

 しかし,先生方におかれましては,どうかご心配なく。若者のいわゆる「トラウマ」に対しては,健全な常識と大人の諦観をもって接すれば十分です。難しいトラウマ理論など知らなくても対応できます。


【症例:18歳,男子,専門学校生,主訴:抑うつ】

 頭痛,倦怠感,食欲不振を主訴に初診。青ざめ,憔悴し切った表情で,動作も荒く,疲労が甚だしいことは明らかであった。現在の症状を矢継ぎ早にリストアップした後,唐突に生い立ちを語り始める。

 3歳時,両親が離婚し,実母に引き取られる。6歳時,実母再婚後,異父弟が生まれる。本人は継父に虐待を受ける。継父は,実母に対してもドメスティック・バイオレンスを振るっていた。本人,11歳時,実母・継父離婚。以来,実母の病院看護助手としての給料で,実母,本人,異父弟のつつましい生活が続く。本人は高校卒業後,専門学校に入学。初診時,専門学校での課題をこなすのが大変で,締め切りに間に合わせるため,しばしば徹夜していたことを語った。

 前回,わたしは「適切な療養指導は,いかなる心理療法にも勝る」と述べました。この若者に対してもその方針は変わりません。すなわち,睡眠時間を減らしてまでして課題をこなそうとしても,かえって能率が悪いこと,むしろ,夜は十分眠って,目覚めている17時間を有効に使うことを勧めました。また,課題の着手がいつも遅れがちで,そのため直前に焦ってしまう傾向があるため,課題の締め切り日を見て,そこから逆算していつごろから開始すれば間に合うかの,時間感覚に意識を向けるよう促しました。
聴かない方が治療的なことも

 しかし,この若者は,それだけでは納得しません。「自分が継父に殴られる情景がしきりに浮かぶ」,「継父の怒鳴り声や実母の泣き叫ぶ声がしきりに耳に残る」と訴え,「課題に集中できない。自分の中のトラウマがある限り前に進めない」と述べるのです。

 こういう若者に対しては,「今は疲れがひどい。まずは,わたしの言う通り,十分な睡眠を取ってほしい。疲労から回復したら,いずれまた話の続きを伺いましょう」,そう言って軽い睡眠薬を出して診察を終了してもいいと思います。

 この若者に対しては,「話を聴かない」方が治療的です。なぜか。それは,疲れているとき,いら立っているとき,自暴自棄になっているときに,その気分のままで言語化を促せば,語れば語るほど,疲れ,いら立ち,自暴自棄が強まるからです。心身の状態が悪いときの語りは,語る者の眼を曇らせます。捨て鉢になっていると,状況が見えなくなり,したがって,判断も対応も誤ります。特に現状に強い不全感があると,それを直接には関係のないはずの過去の出来事のせいにするのは,人間に普遍的に見られる傾向です。

 この若者の場合,今,心的外傷や幼児体験を語らせれば,かえって事態は悪化します。それは,状態が悪いときは,過去の記憶は惨めさと被害感情に彩られて,事実以上に誇張されて想起されるからです。激しい抑うつがあるときほど,陳述は自虐的となり,語れば語るほど惨めになって,いっそう抑うつは深まります。
傾聴は回復の後で

 もちろん,この若者は精神的に納得のいかない未解決の問題を抱えています。それに対して答えを探すプロセスをモニターすることは悪くありません。しかし,それは,心身の状態が改善してからでいいのです。まずは,体調の改善と生活習慣の是正,そして心身が疲労から回復してから,少しずつ言語化を促せばいいでしょう。体調が整ったら,積もる話を聴こうではありませんか。疲労が深刻なら,ただ生活習慣の改善だけを促せばいいのです。

 一部の精神科医は,「時間を取ってじっくりと話を聴く」ことを,あたかも美徳のように語りますが,これは間違いです。語らせることがかえって危険だとみれば,直ちに「その話の続きは次回に」と伝えた方がいいのです。そのような俊敏な決断力もメンタル系の若者への対応には必要です。

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 聞きすぎてもよくないんですね

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